なりよし   
井上 生香


 井上生香さんが突然のようにこの世を去って、この7月(2005年)で4年になる。

昭和53年に「重要無形文化財能楽総合保持者」として国の認定を受けてからも、能楽の演者として、観世流の能楽師範としての活動の場は全国に広がってゆく。

「お能」は難しい、難解だという声もあるが、井上さんは「文語体の言葉に節をつけるので理解し難い面もありますが、オペラの場合がそうであるように、内容を知って鑑賞するほうがより楽しめると思います。特に能の舞台は時間と空間の飛躍が多いので、出来れば鑑賞の前に曲の概要を知っておいて欲しいですね。舞台は虚心に、想像力だけは一杯に、観て戴けたらと思います」と厳しい中にも優しさを溢れさせる。

文化使節としてのヨーロッパ、アメリカなど海外公演にも度々参加し、日本の伝統芸術の担い手として嘱望されていた。

「能は心の芸術です。心を伝えるのに人種の壁はありません」と語っていた姿が、今も髣髴と思い出される。


                    記 藤井宏造